小学校受験で問われるのは、ご両親の育児姿勢。「合格につながる力」を育てる家庭教育について、伸芽会教師が思いを綴ります。
「こうやればできるのよ」と口を出す前に、やらせてあげてほしい。体験こそが、学習の素材なのだから。
ある日の実験授業でのこと。実験を行う前に、先生が子どもたちに問いかけます。「今日は、いろいろな果物を用意してきました。果物を水に入れるとどうなるかな。沈んでしまうでしょうか、浮かぶでしょうか、さあ、考えてみなしょう」イチゴやトマト、リンゴは「浮く!」と笑顔で答える子は多いのですが、バナナやミカンは「?」メロンについては「あんな重いもの浮くわけないよ」と自信たっぷりに主張する子もいます。」イチゴやトマト、リンゴが水に浮くのを知っているのは、お母さんが水洗いしたり、リンゴは色が変わらないようにと水につけてあるのを普段から見ているからです。バナナやミカンは、皮をむいて食べてしまいますから、水に浮かぶ様子を見る機会がないので、どうなるのか予測がつかないようです。しかしメロンとなると、「絶対に沈む!」と、口をとがらせて抗議するかのように言い切る子が出てきます。マスクメロンともなると、触れさせてもらえても、両手で持たせてもらえる子は少ないと思います。スプーンですくって食べたときのあのみずみずしさから、うかばないと想像するのでしょうか。いよいよ実験開始です。3分の2ほど水の入った大きな水槽に、ちいさなものから順に水に入れて確かめていきます。浮くと確信していた果物には、子どもたちは「やっぱり!」と得意そうです。バナナ、ミカンになると口もとが厳しくなる子も出てきて、メロンでは「しんじられない!」と顔を見合わせる子もいます。そして、最後にスイカを水に入れました。スイカは水槽に入るよう小さいものを用意したのですが、浮かぶスイカを見て、男の子がこだわり始めました。「このスイカは小さいから浮かんだけど、先生、大きいスイカだと沈むんじゃない?」
数日後、男の子のお母さんから電話があり、興奮気味の男の子の声が流れてきました。「先生、やっぱり、スイカは大きくても浮かぶんだね!」お母さんのお話では、日曜日に男の子が、お父さんにこういったそうです。「大きいスイカで実験してみたいんだ。ぼくと妹でたくさん食べるから、スイカを買って!」お父さんも、スイカを丸ごと買ったことがないことに気づき、早速その日のうちに買いに出かけ、お風呂に浮かべて実験したそうです。「見て、触って、匂いを嗅いで、食べて…という体験を通して知ったことは忘れないですね。以前、クジラがどのくらい大きいのか見たいといったときには困りましたが、水族館でイルカを見せて、イルカとクジラの大きさを図鑑で比べて、クジラの大きさを紐で作って見せてあげました。何事も確かめないと納得できない子で、手間がかかりますが、親も勉強になるんですよ」男の子のお母さんのお話には、説得力がありました。体験を伴わない幼児教育は、本物の知識として身につきません。記憶だけに頼っていると、忘れがちです。忘れないためにと繰り返しトレーニングを続けることは、幼児にとぅtって苦痛を伴うだけであることを、ご両親もよく知ってほしいのです。幼児を取り巻く環境そのものが、学習の素材なのです。ご家庭でも、危険なことでなければ、どんどん体験させてあげてください。大人にとっては簡単でも、子どもにとっては難しいことがたくさんあります。「こうやればできるのよ」と口を出す前に、やらせてあげてください。失敗を恐れる子は、親が口出しする環境で育てられているといってもいいでしょう。失敗をとがめるだけでは意欲は育ちません。親が友だちを選別したり、遊びまでもコントロールしては、集団生活の適応力は培われないのです。学校側が求めているのは、体験を通して育まれた能力を身に着けている子なのです。